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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)25号 判決

一 請求の原因一、二の事実(特許庁における手続の経緯、審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 審決取消事由についての判断

1 本件意匠は、意匠に係る物品を「精米機用精白転子」とし、その形態は別紙図面(一)のとおりのものであつて、その基本的構成態様が、偏平な略円筒体の上部を大径に、下部を小径とし、外周に溝口を溝底より広く形成した三本の環状溝をほぼ等間隔に設けて、環状溝に区切られた突出部を上段、中段、下段の三段重ねに表わすものであることについては、当事者間に争いがない。

2 次に、引用意匠について検討する。

(一) 成立に争いのない甲第一号証(審決謄本)によれば、審決が特開昭五八―一二八一五二号公報(引用公報)(成立に争いのない甲第二号証)に記載されたその発明に係る「縦型精米機の精白室および精白転子」の実施例の縦断面図である第1図(別紙図面(二))に示された、殻体(符号3)により囲まれた精白室(符号4)内の装置のうち赤斜線部分(但しこの部分は正面図であり、このことは原告も争わないところである。)を刊行物に記載された精白転子の意匠(引用意匠)として、本件意匠との類否判断の対象としたものであることは明らかである。

(二) そこで、別紙図面(二)の全体の形状から精白室内の赤斜線部分を本件意匠の類否判断の対象となる引用意匠として抽出することの適否について、検討する。

前掲甲第二号証によれば、引用公報は、発明の名称を「縦型精米機の精白室および精白転子」とする発明の公開特許公報であつて、その特許請求の範囲の項には、「縦型精白転子の上部を大径に、下部に至るに従つて小径にし、上下間に複数本の環状溝を設けたものの周囲を、溝部以外の外周部にほぼ同一間隔を持つて添う内壁面を有する殻体により囲繞して、全体的に下すぼみで、溝巾は広く外周部は狭い精白室を構成したことを特徴とする、縦型精米機の精白室」との記載があること、同発明の実施例を示す縦断面図として第1図(別紙図面(二))が示され(但し、前記のとおり赤斜線部分は正面図であり、その上部の青斜線部分も正面図であると解せられる。)、図面の簡単な説明の項には、同図面の中で符号1と付された部分が精白転子であり、これが殻体(符号3)により囲まれた精白室(符号4)内に設けられている旨が記載されていること、精白室内の精白転子を含む装置は、多数の斑点を表わした部分(別紙図面(二)の赤斜線部分)とそれ以外の部分(同図面の青斜線部分)とからなつていること、右第1図(別紙図面(二))の説明として、発明の詳細な説明の項に、「研削砥石製の精白転子1は、第1図に例示する環状溝2により区切られた上段、中段、下段の三段ロールを構成し、上段が一番大径で、中段、下段と漸次小径にする」との記載があることが、それぞれ認められる。

右の特許請求の範囲の中の精白転子に関する部分と認められる「縦型精白転子の上部を大径に、下部に至るに従つて小径にし、上下間に複数本の環状溝を設けたもの」との記載及び発明の詳細な説明の項の記載は、精白転子が別紙図面(二)の精白室内の装置のうち、多数の斑点を表わした部分(同図面の赤斜線部分)のみであることを示しており、特に発明の詳細な説明の項の記載は研削砥石製の精白転子に関するものであるところ、別紙図面(二)の精白室内の装置のうち、多数の斑点を表わした部分(赤斜線部分)はその表現様式自体からみて研削砥石の材質を表現したものと解することができるから、このことからも同図面の赤斜線部分が精白転子を示すことは明らかである。そして、右のうち多数の斑点を表わしていない部分(同図面の青斜線部分)は研削砥石以外の材質からなる部品であつて、精白転子ではなく、これを押える部材(審決の摘示する回転子押え)であると認めるのが相当である。

このように、別紙図面(二)が記載された刊行物である引用公報自体から別紙図面(二)のうち赤斜線部分が符号1として示された精白転子であると理解されるのであり、この部分を抽出して、その形状を本件意匠との類否判断の対象とすることはなんら差支えないものというべきである。

(三) 次に、引用意匠の基本的構成態様について検討する。

(1) 別紙図面(二)に示された引用意匠に係る物品である「精白転子」は、後に述べるように、三個のロール(円筒体)を積み重ねて全体として一個の円筒状を形成する装置であると認めることができるから、その基本的構成態様は、審決が認定するように、偏平な略円筒体の上部を大径に、下部を小径とし、外周に溝口を溝底より広く形成した三本の環状溝をほぼ等間隔に設けて、環状溝に区切られた上段、中段、下段の三段重ねの突出部を表わしたものであると認めることができる(精白転子が右のように三個のロールを積み重ね全体として一個の円筒状としたものである以上、その形状は正面図のみから把握し得るものであることはいうまでもないところである。)。

(2) 原告は、本件意匠に係る物品の一般需要者である精米業者、酒造業者等精米機を購入する者を基準として意匠の類否を判断すべきであるとして、これらの者は、引用公報に記載された「転子」「ロール」を構成しの語の意義を理解し得ないものであるから、引用意匠の基本的構成態様を把握することができない旨の主張をする。

しかしながら、いずれも成立に争いのない乙第二号証の一ないし三(角川「国語辞典」新版・株式会社角川書店・昭和五四年一月二〇日発行)及び乙第三号証の一ないし三(図解「機械用語辞典」第二版・日刊工業新聞社・昭和五八年一月三〇日発行)によれば、「転子」の語は、元来「ころ」と読まれ、一般の辞書である角川「国語辞典」(乙第二号証の一ないし三)にも掲載されている言葉であり(一般に、重いものを動かすときに下に敷く丸い棒の意味で使われている。)、機械用語としては、「ころ」とは、機械用語辞典に記載されているように、円形の断面の転動体であつて、物を支え運んだりするのに用い、「円筒ころ」、「球面ころ」、「テーパころ」、その他の種類があること、したがつて、「転子」は、その構成が転動体ないし回転体であるものを意味する語句であることが認められる。また、ロールが円筒体を意味することは広く知られているところである(原告もこのこと自体は明らかに争つていない。)。

しかして、原告が一般需要者と主張する精米業者、酒造業者等はいわゆる一般消費者とは異なり、日常営業の一部として精米機を使用しているのであるから、これらの者であつても、少なくとも引用公報に記載された「転子」が回転体を意味し、「三段ロールを構成し」とは、その前後の記載である前記の「第1図に例示する環状溝2により区切られた上段、中段、下段の三段ロールを構成し、上段が一番大径で、中段、下段と漸次小径にする」との記載に則して理解すれば、環状溝で区切られた三個の平盤なロール体(円筒体)が縦に三段に積み重ねられて、全体として一つの円筒状を形成することを意味することを理解し得るものと認めるのが相当であり、したがつて、刊行物である引用公報に記載された別紙図面(二)の引用意匠の基本的構成態様も十分認識し得るものというべきである。

3 以上によれば、本件意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品を同じくし、且つ、その基本的構成態様が略一致するものであることが明らかであるところ、これら基本的構成態様は両意匠の形態上の特徴を最もよくあらわしており、類否判断を決する要部をなすものと認められるから(なお、筒体の内側に関し、本件意匠は略等間隔に凹状環溝三本を表わすのに対し、引用意匠の内側の態様が明らかでないことについては当事者間に争いのないところ、この点は本件意匠のみの特徴とはいい難く、右判断に影響を与えるものでないことは、審決の認定するとおりである。)、本件意匠は引用意匠と類似するものであると認めることができる。

そして、引用意匠が本件意匠出願前の昭和五八年七月三〇日に公開された公開特許公報(引用公報)に記載されている意匠であることは前認定のとおりであるから、本件意匠は、その出願前に頒布された刊行物に記載された引用意匠と類似するものであるとした審決の判断に誤りはなく、審決には原告主張の違法は存在しない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却する。

〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

意匠権者 原告

意匠の形態 別紙図面(一)のとおり(本件意匠)

意匠に係る物品 精米機用精白転子

出願日 昭和五八年八月二九日

設定登録日 昭和六二年八月三一日(登録第七二一八五一号意匠)

登録無効審判請求 昭和六二年一月五日(昭和六三年審判第一一七三三号事件)

請求人 被告

意匠登録無効審決 平成元年一一月三〇日

二 審決の理由の要点 (中略)

3 審決の判断

(一) 本件意匠

本件意匠の出願日、設定登録日及び意匠に係る物品は、前項記載のとおりであり、その形態は、別紙図面(一)のとおりである。

その基本的構成態様は、偏平な略円筒体の上部を大径に、下部を小径とし、外周に溝口を溝底より広く形成した三本の環状溝をほぼ等間隔に設けて、環状溝に区切られた突出部を上段、中段、下段の三段重ねに表わすものである。

なお、筒体内側には、略等間隔に凹状環溝を三本表わしてある。

(二) 引用意匠

引用意匠は、本件意匠出願前の昭和五八年七月三〇日公開の公開特許公報に記載されている特開昭五八―一二八一五二号公報(引用公報)の「縦型精米機の精白室および精白転子」の第1図中の精白転子(別紙図面(二)の赤斜線部分)に係るものである。

精白転子(回転子押えを除く)の基本的構成態様は、偏平な略円筒体の上部を大径に下部を小径とし、外周に溝口を溝底より広く形成した三本の環状溝をほぼ等間隔に設けて、環状溝に区切られた上段、中段、下段の三段重ねの突出部を表わしたものである。なお、内側の態様は明らかでない。

(三) 本件意匠との対比考案

(1) 以上のとおり、両意匠は物品が一致し、引用意匠の「精白転子」の形態は、基本的構成態様が本件意匠とほぼ一致し、この点が両意匠の形態上の特徴を最も良く表わしており、類否判断を決定する要部をなすものと認める。

一方、筒体の内側は、本件意匠は凹状環溝三本を表わすが、甲号意匠ではこの点が不明である。これについてみると、筒体の内側で、かつ本件意匠のみの特徴とはいい難く(特開昭四八―八五三四四号の第一図参照)、意匠上その点に差異があるとしても、前記判断に影響を与えるものではない。

(2) これに対し、被請求人は、六面図がそろつていなければ、立体の意匠の類否判断を的確に行うことはできず、足りない部分を文章による説明で、補足判断することも不正確であると主張するが、引用意匠の物品は「精白転子」という物品名からも分かるとおり回転体であつて、転子部の説明に「上段、中段、下段の三段ロールを構成し」とあるように、円筒体であることが明示されているので、示されているのは正面図だけであつても、背面図、左側面図、右側面図は、正面図と略同一に現われることが、物品の性質上予測される(このような場合には意匠法施行規則様式第五によつても、図面の省略が認められているところであり、本件意匠の添付図面(別紙図面(一))も、背面図、左右側面図を正面図と同一であると記載して、省略している)ので、引用公報に記載された引用意匠は、正面図のみによるものであつても、その記載全体から、前記のとおりその意匠の要旨を把握することができるので、類否判断ができないとする被請求人の主張は、認めることができない。

(四) 結び

以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品と、形態の本質的特徴を形成する意匠上の要部が共通であるから、本件意匠は、引用意匠と類似するものと認める。

したがつて、本件意匠は、その出願前に頒布された刊行物に記載された意匠と類似するものであり、意匠法三条一項三号に該当するので、同法三条一項の要件を具備しないにもかかわらず、これに違反して登録されたものであるから、その登録は無効とすべきものである。

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙図面(一)

意匠に係る物品 精米機用精白転子

説明

<省略>

別紙図面(二)

意匠に係る物品 精米機用精白転子

説明 第1図は本発明の一実施例を示す縦断面図、第2図は同じく他の実施例を示す縦断面図、第3図、第4図、第5図はそれぞれ従来品の代表的なものの例を示す縦断面図である。

1…精白転子 2…環状溝 3…設体 4…精白室 5…抵抗体 6…排出口

<省略>

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